これは山あいの街へ朝の時間を撮りに行った日のものがたりです。
*第一話からものがたりというタグでまとめています。
【第四話:甘い葉の匂いと秋の朝。】
–
こんにちは、おささるろぐです。
この日は自分の好きな山あいの小さな街へ写真を撮りに行くことにしていた。
自分が住む街から下道で1時間30分と少しくらいで着くのだけれど、10月のこの季節はまだ日が昇る時間が午前5時半くらいで、そうなると午前3時半には家を出ないといけない。
じゃあ起きるのは3時前とかか、、うーんちょっと早すぎるな。
そう思って今回はめずらしく高速道路を使って行くことにした。
スポンサーリンク
一枚の葉とともに

高速道路に乗るのはいつぶりだっけ。
出発まえには家の前でいつもより入念に目視で車の各所点検をしたし、1週間ほど車に乗っていなかったはずなので、空気の入れ替えも兼ねてドアを全開にしておいた。
まだ夜の冷たい風が車内に入ってきて、それと入れ替わる様に中にこもっていた空気が外へと追い出されていく。
車内はあっという間に夜のしんとした空気になった。
そんな夜の風に乗って来たのか、開けたドアから秋の葉が一枚車内へ入って来た。
季節感もあって何かいいな。と思って一枚の葉と山あいの街へ行くことにした。
ラジオを聴きながら。

こんな夜から出かける時のBGMはラジオに限る。
普段車を運転するときはスマホの音楽かラジオか半々だけれど、夜から朝にかけては人の声があると安心するし、途中で天気予報も入るから、こんな風にまだ暗い時間に出かけるならラジオ一択だ。
しかも山間部へ入ればザアザアとノイズが入って聞こえないこともあるから、バンドはAMでその中でも聞こえやすい真面目な声のする周波数に最初から合わせておく。
–
夜の高速道を走るゴーゴーというロードノイズの中で、突然ふと思い出した。
そういや、結構前に仕事で学校へ納品に行った時に声を掛けてくれたの誰だっけ。
あ、そうそう!コウダイくんっていったっけ、あの青年あれからどうしたんだろうな。結局チャリで河原へ行ったのかなあ。
曇り空もいい。

ラジオでは今朝の最低気温が7℃と言っていた。
気温が5℃を下回ると路面凍結の可能性もあるし、外気温を気にかけたりラジオの天気予報にも耳を傾けて、状況を確かめながら先へと進む。
高速道路なら1時間も掛からず着くうえに、こんな時間に走っている車はほぼ居ないので、安全運転も捗る。
夜が早朝へと向かう時間になってくると、右側の空には少し明るさが感じられ、空にたくさんの曇が浮かんでいるのもわかってくる。
けどそれもいいなと思う。
曇りの日や雲の形も、それはそれで綺麗だと知っているから。
焦がしたキャラメルみたいに。

途中のSAでトイレ休憩を済ませて車へ戻ると、少し甘い匂いがする気がした。
なんだろう。
ぼくはひとよりも匂いを感じやすい特性を持っている。せっかくだから何の匂いか当ててみようと思った。
いちど「すん」としてみる。
どうもキャラメルを少し焦がしたような甘さだ。でも車内でお菓子を食べてた訳じゃない。
よく思い出してみれば、さっきから少しこの匂いがしていたかも。
「ってことは、もしかして。」と思って、家の前で車内に入った葉を「すん」としてみると、その葉から少し甘い匂いがしていた。
きらきらの朝に。

たしか広葉樹の葉の中には秋になると甘い匂いがする葉がある。
それは以前によく登山をしていた頃、山に入ると香ってくるので感覚的に覚えていた。あの時もキャラメルを焦がしたみたいな甘い匂いだった。
それと同じ匂いだ。
ぼくは樹木に詳しくはないから、その木の名前まではよく知らないけれど。
でもこれは山の匂いだ。
今日はこの山の少し甘い匂いとともに、山あいの朝の風景を撮りに行く。
それもいいなと思う。
–
目的の山あいの街まで来ると、雲の隙間から太陽が顔を出して来て、朝露に濡れた草木をキラキラと輝いて見せてくれる。
そしてシャッターを切る。
足元は悪いけれど冬用のライトトレッキングの靴も履いていたし安心だ。
石段のそばに咲く小さな花を撮ったり、カメラの絞りリングをF2.0くらいまで絞って背景の濡れた草に太陽が当たるキラキラした感じを撮ったりするうち、太陽は次第に上昇して、早朝から朝へと向かっていく。
朝はやっぱり綺麗で、綺麗なものは綺麗としか言いようが無い。語彙力とかいう人もいるけどぼくは「きれいだな」で良いと思っている。
この日もそんなふうにして朝が始まる頃まで写真を撮って歩いて、そして帰りに少しだけ海を見て帰って来た。
家に帰ったら、どろどろになった車を洗車するつもりだったけれど、朝が早かったせいか気が付くと畳の上で一時間ほど寝てしまっていた。
そして目を覚ましたとき、またあの甘い匂いのする山へ行こうかなと思った。
mizunara.
つづく
第五話「大きな川まで」も描きました。
他にも、朝焼けや日の出や朝陽のことを書いた記事は「朝陽や日の出」というタグでまとめてあります。もしよかったらこちらもご覧ください。