ーこれは、簡単なおはなしです。ー
*第一話からものがたりというタグでまとめています。
【第三話:春の風が聞こえる】
ここの所、天気の悪い日が続いている。
コウダイはどうも春の雨が苦手だった。
それはただでさえ冷たい雨が春の風でどんどん身体の体温を奪っていくからで、高校の片道40分の自転車通学でいやという程味わっていたのだ。
「だから寒い春ってちょっと苦手なんだ」
でも、明日は久しぶりに雨が降らないらしい、それどころか5月なのに予想最高気温が24度になっていて、出かけるのにはうってつけだ。
ちょうど、またどこかへ行きたいなと思っていた。
「もう少し早い時間に出発すれば、次はもっと遠くまで行ける」
先日、自転車で豊平川を見に行ったあとにそう思った。
それに、川のある風景が好きになっていて、今回も川のあるところを見に行きたいとも思っていた。
川の進路を中心にしてこの街の地図を眺めていると、空港の北側に川が集まる場所がある。
こないだ行った川のように大きな川ではないけれど、いくつかの川が集まっていく感じで、そんな場所の風景も見てみたい。
「目的地はここにしよう。」
明日はどんな景色が見られるか楽しみだ。
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5月の風が吹く街まで
目的地への途中までは前と同じルート
天気予報のとおり今日は青空が広がっている。
今回もまずはパンの名前の通りから国道に出て、地図でみておいた走りやすそうな道で自転車道路に出る。
そこから前回訪れた大きな川まではほぼ同じルートで進んでいく。
一度通った道なので、前よりも迷いなく進むことができて嬉しい。
ただ5月とはいえ今日の日差しは厳しい。帽子もかぶってきたし、しっかり水も持ってきたからちょいちょい自転車を止めては水タイムも忘れない。
途中で出店が並んでいるのを見た。
風に乗って焼きそばの匂いがする。なんか懐かしい匂いだな。
きっとお祭りをやっているのだ。
たくさんの人が来ているのを見て、やっぱり華やかだと思った。
去年あたりから様々なお祭りごとは本格的に再開していて、今年は以前よりも盛んに行われているように思う。
季節や収穫に感謝したりとか、こうして人が集まって繋がりを持つことは、この時代になって改めてとても大切に考えられるようになっていた。
身近な話だと俺もこないだ町内会のイベントで近所の子供達と花火をした。
5月に花火とはちょっと早過ぎやしませんか。とも思ったが、こういうちょっとした日常ではない感じもなんだか嬉しい。
大きな川を渡って地下鉄の通りまで出る
大きな川の橋の上からはこの街の中心地が見えた、見えると言っても高層ビルが立ち並んでいてそれを見上げる形なのだが、この街が大きな都市だというのがわかる。
「ここからなら夜の街の明かりも綺麗に見られそうだな。」
そんな橋を渡りきって、そのあと線路の下を潜って地下鉄の通りまで進んでいく。俺の家の近くにある駅と同じ路線の地下鉄だ。
それなら地下鉄で来てもよいのだけど、こんな久しぶりに晴れた日なら自転車が最高なのだ。
そこからはひたすら北へ真っ直ぐ進んでいく。地下鉄の終点駅の交差点で右に曲がって空港の西側の通りに出て、そこを左に曲がる。
あとは目的地まで北へほぼ真っ直ぐだ。
甘い炭酸と次の季節へ

空港沿いの道を北に進むと風が抜けていく。
見渡しが良いこの辺りを風が吹き抜けているようで、5月にしては暑いこんな日には涼しくて心地が良い。
遠く正面から飛行機がやってきて徐々に大きく見えて、それが自分の頭上を通ってすぐそこの滑走路に着陸するのが見えた。こんなに近くで飛行機を見られると思ってなかったからなんか嬉しい。
またしばらく進むと道はゆるやかにカーブして、その先、左手の奥の方に目的地の街の駅が見えた。
事前に調べておいたとおり、雰囲気の良い駅だ。
駅舎の前には大きな木があって、電話ボックスと自販機もあって、自転車が並んでいる。
西口の方は綺麗に整備されたロータリーがあるが、俺は東側のこの雰囲気がとても好きだ。
実際に来てみてよかった。
駅前の自販機で炭酸を買った。
予想気温の24度よりもっと高いのではというくらい暑い、目に留まった駅前の自販機で甘い炭酸を買った。
「少し休憩しよう。」
炭酸を飲むと、喉が鳴る音が自分でも聞こえる、最高に心地が良い。
思わずあぁーという声も溢れる。いまならこの炭酸のCMを演じられる自信がある。冗談だけど。
川の方まで行ってみる。
しばらく休憩したあと、ふたたび自転車に乗って、東側にある川に向かった。
途中大きなスーパーがある複合施設の横を通って、ゆっくりとカーブした道を進む。
この辺りは道幅も広く並木も綺麗で、ゆったりとした雰囲気がある。
5分もしないうちに川にたどり着いた。
空が広くて風が気持ちいい。
橋の上で聞き慣れない鳥の声がして、自転車を止めて頭上を見ると大きな鳥が飛んでいた。
ここからは遠く山の方までよく見えて、とても眺めが良い。
そしてやっぱり風が気持ち良い。
川を抜けていく風なのか、この街に吹く風なのか。
目を閉じると次の季節の風景が運ばれてくるような気がする。
もうすぐ日が暮れそうだ、まだ少し残っている炭酸を飲み干したら帰ろう。
kodai.
つづく。
「本とオールドレンズを携えて」も描きました。