ーこれは、簡単なおはなしです。ー
*第一話からものがたりというタグでまとめています。
【第一話:春の頃、豊水大橋の見えるところへ】
令和も五年を過ぎて、みんな旅行へ出かけるようになったせいもあり、航空券や宿泊費の高騰が続いていて、高校を卒業したばかりの俺には手の出しようもなかった。
あれから世の中は前より少しだけ変わって、10月の入学や就職もわりと普通になっていた。
その変わり目の隙間に俺はちょうどはまってしまったようで、3月に高校を卒業したものの、就職した会社の入社は10月になってしまい、半年間何もすることがなくなった。
「コウダイは、若いうちにいっぱい色んなことを吸収しておきなさい」と、親からはしょっちゅう言われるけど、俺は旅行に行っていろいろ吸収したいとは思っているんだよ。
でもなー。
需要が増えると価値が上がって、それは料金に反映されるのだと、この社会の仕組みをいやでも思い知らされているわけだ。
旅行費高騰の影響で、旅行希望者は「わりと手軽な週末近郊日帰り旅」みたいなものに流れているらしく、俺が住んでいる札幌あたりのJR週末乗車率でさえ前年比230%とか、レンタカーが不足してるとか、しょっちゅうニュースで聞くようになっていた。
「230%ってなんだよ。。」
あわよくば北海道内めぐりでも出来ればと思っていたが、需要増のこのタイミングではそれも叶いそうもなかった。
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風が吹いている
4月の終わりに在校生と先輩の交流会というイベントで母校に呼ばれた。
就職した先輩として就職を希望する在校生にアドバイスしてほしいというものだった。
俺の卒業した高校では進学する人が多く、交流会でも在校生の参加者は10人ちょいしか居ないそうで、割と和気あいあいとやって良いと聞いていた。でも俺はまだ入社してないしまだ働いてもいないから、何をアドバイスすりゃ良いのやら。
それにアドバイスしてほしいのは、どっちかといえば俺の方だ。時間はたっぷりあるのに旅行にも行けない、突然現れたこの長い休み期間をどうやって過ごしたら良いものか。
ひさしぶりに訪れた学校はなんか懐かしい匂いがする。
職員用玄関から入ってきた出入りの業者さんぽい人と廊下ですれ違う時に思い切って声をかけてみた。我ながらどうかしてるとは思ったが、周りの目を気にするより大人に聞いた方が早そうだと思ったのだ。
「こんにちは!あの、すみません、俺はコウダイといいます!いま旅行に行くお金もないけど時間はある。こんな状況で何をしたらいいと思いますか?」
「え、、?ぼくに聞いてる?ああ、こんにちは。」
「はい、突然すみません、かくかくしかじかでアドバイスがほしいんです」
「あー、航空券も宿泊費も二倍くらいになったしそもそもチケットも取れないしなー、それで旅行したいけどできない、なんか良いアイデアは無いかって話ねー。」
「はい、そうなんです。」
「うーん、そうだなー。ぼくはね、写真を撮るのが趣味なんだけど、別にそこら辺でも綺麗な風景や美しい時間は結構あるんだよ。自転車とかバスとかで近場の風景でも見たらいいんじゃない?」
「なるほど。具体的には、どこかおすすめはありますか!」
「あー、そういうのは自分で見つけるから楽しいってのもあるんだけどなあ、そうだなあ、、。たとえば河原とかいいんじゃない?いまは雪が溶けたあとで芽吹く季節で綺麗だよ。大きめの橋が見える所なら、行き交う車を見ながら風景とか風を感じてるだけで普段の喧騒を離れた気分にはなるかもね。まあ旅行とまではいかないけどさ。」
「ありがとうございます!参考になります!俺チャリがあるから今度河原に行ってみます」
「はいよー、気をつけてね」
5月の空は少しほこりっぽいけど、青くて綺麗だった。

俺の住んでいる街から、自転車で坂を下って豊平川に向かうことにした。
パンの名前のついた通りから国道に出て、そこから坂を下って走り出したが車の交通量が多く、自転車で走っていると気疲れしてしまう。
白石の方へ行けば自転車道路があるので、そこまで行って東札幌までは自転車道路を通ることにした。
さっきとは違ってとても走りやすい。
途中から自転車道路はゆっくりと右に大きくカーブして、大型商業施設の横を通り、その辺りで自転車道路は終わりだった。
ずいぶん綺麗にカーブした道なんだな。自転車で走っていると街の風景も少しずつ変わって見えてきて、なんかすごくいい感じだ。
こうやって普段通らない道を通るのもいいな。
ここからは豊平川まで車の量があまり多くなさそうな道を選んでいって、そこから豊平川河川敷の自転車道路で川を下って目的地まで行ってみることにした。
豊平川の河川敷へ出ると、強い風がシャツの中を通り過ぎていく。
背中にじっとりとかいていた汗もひいていくのがわかる。
今回の目的地は「豊水大橋」の見えるところに決めていた。
河川敷の自転車道路を下流へ向かって走り、平和大橋の下を潜ると遠くにJRが豊平川を渡る橋が見えてくる。
気のせいかもしれないけど、電車が見えると少し遠くに来た気分になった。俺の住んでいるところは近くにJRの駅もないから、電車が走っているのが見える風景は割と新鮮だ。
それにだんだんと建物の密集度も低くなってきて、そもそも風景がよくみえるようになった。
上白石橋、北十三条大橋、環状北大橋を順に潜ってさらに進んでいく。
ただのママチャリだけど、風に押されて進んでいくのはまるで風に乗っているみたいだ。ってのは言い過ぎかもしれないけど、気分はそんな感じだ。
豊水大橋を潜って、しばらくして自転車を降りた。
自転車で走っているときは気がつかなかったが、歩いて辺りをよく見ていると、5月初旬の河川敷は若草も生えはじめていて、所々でたんぽぽも咲いている。
次の季節が来ているのだとよくわかる。
遠くには豊水大橋を渡る多くの車の列が見える。
じっとしていると少し肌寒くも感じるが、季節を感じてゆっくりと河原で過ごしているうちに心地よくなってきた、学校の廊下であの人が教えてくれたことがわかった気がする。
これは確かに、
旅ではないかもしれないけれど。
なんかいい。
豊水大橋を見上げると、春のほこりっぽい空も、光の加減でとても青くみえた。
kodai.
つづく。
「春の風が聞こえる」も描きました。